受賞者
飯沼 智久 先生
- 医学博士(千葉大学)
- 千葉大学大学院・医学研究院耳鼻咽喉・頭頸部腫瘍学教室 助教
このたび、再び名誉ある奥田財団花粉症学等学術顕彰財団学術賞を授与いただき、心より感謝申し上げます。一度目の受賞が私にとって大きな誇りであったことは言うまでもありませんが、二度目の受賞はさらに特別な意味を持ち、私の学術生活において非常に重要な節目となります。この機会を得られたのも、岡本美孝先生、花澤豊行先生をはじめとする多くの指導教員の先生方のおかげです。また、厳正な審査を通じてこの賞を授けていただいた審査員の皆様にも深く感謝いたします。
本研究で注目した舌下免疫療法の作用機序の解明は、シングルセル解析を通じて花粉症の病態を詳細に解析する試みでもありました。一筋縄ではいかず、完成までに年月がかかりましたが、このアプローチにより舌下免疫療法の新たな可能性が開かれれば望外の喜びです。
受賞の喜びと同時に感じる責任感とプレッシャーを新たな研究への推進力に変え、これからも花粉症の病態解明と治療法の発展のために尽力して参ります。引き続きご支援とご指導を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
論文の日本語抄録
背景
アレルギー性鼻炎は世界的に増加している疾患である。現在、この疾患の体質を改善できる唯一の治療法は抗原特異的免疫療法であるが、その作用機序は完全には解明されていない。
そのためスギ花粉症に対する舌下免疫療法(SLIT)前後の抗原特異的T細胞の役割と変化を総合的に検討する。
方法
SLIT開始前と開始1年後に得られたPBMCを培養し、シングルセルRNAシーケンスとレパトア解析を併用した。バイオマーカーを調べるために、スギ花粉症に対する舌下錠の第II/III相試験に参加した患者のPBMCと、外来患者の反応良好者と反応不良者のPBMCを用いた。
結果
SLIT後のPBMCでは、Th2細胞およびTreg細胞のクローン拡大が認められた。またこれらのCD4T細胞のほとんどは、治療前後でCDR3領域を保持していたことから、SLITによる抗原特異的なクローン性応答が示された。SLITは機能的なTh2細胞数を減少させたが、Musculin(MSC)、TGF-β、IL-2を発現するトランス型Th2細胞集団は増加させた。疑似時間軸での解析から、SLITは病原性Th2細胞から機能を抑制されたトランス型Th2細胞へ誘導し、さらにTreg細胞のクローン性分化を誘導することが示唆された。リアルタイムPCR法を用いて、SLIT治療1年後の積極的治療群および良好反応群において、MSCが上昇していることを見出した。
結論
シングルセルRNAシーケンスとレパトア解析の組み合わせにより、SLITが病原性Th2細胞上のMSCの発現を促進し、その機能を抑制するという効果発現メカニズムの一端が明らかになった。またMSCは、アレルギー性鼻炎に対するSLITのバイオマーカーとなる可能性がある。